2008年03月24日

アメリカ知的財産法への誘い〜米国における職務発明(第2回)〜

前回概要をご紹介した職務発明の事例は、正直なところ判りにくかったのではないかと思います。その理由はCAFCの判決理由が法律論だからです。


わかりやすく言えば、この事件は、発明者Aと雇用者(HP)との間の雇用契約の「発明譲渡規定」が有効かどうかについて争ったものでした。地裁は、その規定は有効であるので、その契約の締結日から、特許権は雇用者のHPに移っており、原告のIpVenture には裁判を起こす権利(原告適格)がないと判決したのです。その根拠となる先例(CAFC判決)を2件引用しました。これは非常に判りやすい論理です。


ところが、CAFCはこの地裁の判断が誤りであるとしました。その理由は、問題の発明譲渡規定は「将来発生するであろう譲渡」を定めたものであって、それが実際に有効となるためには、具体的な発明について明文の譲渡合意がなければならないとの解釈を取りました。今回の事件の場合、雇用契約中の譲渡規定だけで発明の譲渡を認めるのは不十分であるとしたわけです。


発明者AとHPとの間の発明譲渡規定では


「AがHPに雇用されている間、A単独または他との共同で生まれた発明および発見については・・・、それらはHP単独の財産であり、Aは、・・・それらをHPに譲渡することに合意する


となっています。この規定を素直に読めば、地裁が判断したようにAの職務発明はHPに譲渡されたと考えるのが普通でしょう。


しかし、アメリカでは発明者に権利が帰属するのが原則なので、その原則を曲げるには具体的かつ明示的な証拠が必要であるというのがCAFCの判決の趣旨といえます。つまり、将来生まれるであろう発明の譲渡を予め約束しても、実際に発生した発明について具体的かつ明文で譲渡の合意がなされない限り、当初の約束は無効であるという考え方です。この事件の場合、2005年のHPとIpVenture との契約によって、HPが特許権の放棄を確認しています。CAFCによれば、その文書は、当初の譲渡規定のCAFCの解釈が正しことを裏付けているのです。


この考え方は、「発明規程での一方的な譲渡合意は認められない」とする日本の職務発明判決(オリンパス事件)にも見られます。つまり、将来生み出される発明の帰属を、予め雇用契約で定めて置いても、それが具体的に契約として明文化されなければ無効です、ということを確認した判決といえるでしょう。


前回、事実関係で重要な事項が抜けていましたのでここに補足します。

発明者Aは原告(IpVenture)のオーナーの一人でした。つまり、CAFCの解釈のように雇用契約の中の譲渡規定が無効であれば、235特許は当然発明者であるAに帰属します。Aは自分の会社であるIpVentureに保有特許を譲渡して会社として235特許の権利行使ができることになります。だからこそ、2003年※に侵害訴訟を起こしたのです。


※前回提訴年を2002年と書きましたが2003年の誤りです。訂正します。


posted by J.Fujino at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メールマガジン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。