2008年02月12日

アメリカ知的財産法への誘い〜米国特許法の域外適用(第2回)〜

前回、ソフトウエアは米国特許法271条(f)で規定する「構成部品」と認められず、米国特許法の域外適用は認められないとする米連邦最高裁判決を紹介しました。この最高裁判決がどれほどの広がりをもつかはっきりしません。最高裁判決によりソフトウエア特許は対象外であることは明らかですが、他の場合にどのようになるかは明確ではありません。今回は、プロセス特許が絡んだ域外適用の問題を紹介して、その点を考えてみます。


ポリエステル繊維や樹脂は、エチレンオキシドを材料にします。エチレンオキシドは、エチレンと酸素を反応させて生成しますが、その時に銀を触媒にすると反応効率がよくなることが知られていました。

ユニオン・カーバイドは、銀に他の金属を加えると反応効率が一層改善することを発見し、3件のプロセス特許を取得しました。そしてその特許を根拠にライバルのシェル石油を訴えたのです。提訴理由は、シェル石油の使用した触媒がユニオン・カーバイドの特許に侵害するというものでした。

一審は陪審裁判となり、陪審員はユニオン・カーバイド敗訴(非侵害、特許無効、損害賠償なし)の評決を出しました。ユニオン・カーバイドはこの判決を不服としてCAFCに控訴。CAFCは、一部の争点について地裁の判決に問題があるとして、その問題についてのみ裁判の差し戻しを命じました。差し戻し審では、ユニオン・カーバイドの1件の特許だけが問題となりました。

その特許について陪審員は、シェル石油の触媒販売は、間接侵害を構成するとして侵害を認める評決を下しました。


それを受けた地裁判事は、損害賠償の算定にあたりシェル石油の触媒を外国に輸出した分については計算に含めないと結論付けました。特許法271条(f)(下記参照)はプロセスクレームを対象にしていないという理由からです。


271条(f)(再録)
(1) 特許発明の構成部品を、米国内もしくは海外へ許可無く供給した者は、その構成部品が全体的もしくは部分的に組み立てられていないものの、米国内で組み立てられるような状態にあり、もし米国内で組み立てれば特許権を侵害するものであるとき、侵害の罪に問われる。    

※米国特許法271条(コーネル大学)              
 http://www.law.cornell.edu/patent/35uscs271.html



地裁判事は「271条(f)は特許発明の構成部品の輸出に対しては侵害責任を課すものであるが、プロセスクレームについては適用されない」との解釈を示しました。その結果、海外輸出分を除き、それ以外の触媒については侵害を認め、差止め命令を出したのです。この判決にシェル石油もユニオン・カーバイドも不服でCAFCに控訴しました。


控訴を受けたCAFCは、この地裁判事の解釈は誤りであるとしました。CAFCは、自ら下したEolas v. Microsoft 事件判決にもとづき、271条(f)はプロセスクレームにも等しく適用されると解釈しました。

さらに、自らのAT&T v. Microsoft 事件判決もその根拠の一つであるとしました。ところが、このAT&T v. Microsoft 事件のCAFC判決は、後に最高裁で覆され、ソフトウエアは構成部品ではないと判断されたのは前回書いたとおりです。プロセスクレームについては、ユニオン・カーバイド事件は覆されていませんので、その事件でのCAFC判決は拘束力をもつと考えるのが普通ですが、今後似たような事件で、CAFCがAT&T事件最高裁判決を踏まえて、271条(f)にもとづく域外適用がプロセスクレームの場合にも認めるかどうかについては、異なる解釈がでる可能性があるかもしれません。


CAFCの法解釈に対して最高裁判決が異を唱えることが多くなっていますので、CAFCとしても最高裁の顔色を伺わざるを得ない状況になっているのもその理由の一つです。


次回は、米国の職務発明をめぐるトピックを紹介します。


posted by J.Fujino at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メールマガジン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。