2008年01月28日

アメリカ知的財産法への誘い〜米国特許法の域外適用(第1回)〜

特許法は原則としてそれが制定された国内でのみ適用されます。これは「属地主義」と呼ばれる考え方です。ところが、米国特許法には、国外の行為にも米国特許法が及ぶとする規定があります。米国特許法271条(f)の規定がそれです。いわば属地主義の例外にあたり「域外適用」(extraterritoriality)と呼ばれています。


※米国特許法271条(コーネル大学)
 http://www.law.cornell.edu/patent/35uscs271.html


271条(f)の規定は、概ね、以下の内容です。

(1) 特許発明の構成部品を、米国内もしくは海外へ許可無く供給した者は、その構成部品が全体的もしくは部分的に組み立てられていないものの、米国内で組み立てられるような状態にあり、もし米国内で組み立てれば特許権を侵害するものであるとき、侵害の罪に問われる。

(2) (略)


ここでなぜこのような規定が米国で生まれたかを考えてみます。この問題の端緒はおよそ150年前に遡ります。フランス船の構造が米国特許に侵害するとして、侵害裁判が起こされました。連邦最高裁は、通商・外交上の配慮から、米国特許は外国船には及ばないと判決しました(Brown事件、1856年)。この判決により、米国特許法の域外適用の禁止が判例として確立したのです。


1972年には、米国特許でカバーしている製品を分解して部品を国外に送り、国外でそれを組み立てたことに対して侵害裁判が米国で起こされました。この事件を取り上げた連邦最高裁は、域外適用禁止の判例に従い米国特許非侵害の判決を下しました(Deepsouth事件)。当時は、司法にアンチパテントの流れが残っており、この最高裁判決はある意味で当然の結果でした。


しかし、関係業界が動き出しました。ロビー活動を強力に展開して特許法改正を求めた結果、議会は1987年に特許法に271条(f)を追加したのです。これによって、外国での迂回行為に米国特許を適用できる道がひらかれたのです。当時発表された法改正の理由は、特許品の部品を輸出して海外で組み立てさせる迂回行為を防止し、特許法の抜け道をふさぐことにあるとされました。


このような域外適用の経緯を見ると、そもそも271条(f)の域外適用は、機械製品などの物理的な製品の構成部品を単体で外国に供給し、そこで組み立てることを対象にしていることがわかります。そのような事件では、域外適用が認められていました。


しかし、2005年以降になると、ソフトウエアを対象とした域外適用の問題が続発するようになりました。要するに有体部品ではなく、ソフトウエアが「構成部品」にあたるかどうかという問題です。CAFCは、ソフトウエアも構成部品にあたるという判断を示し始めましたが、それに待ったをかけたのが連邦最高裁でした。


最高裁は2007年4月、AT&T v. Microsoft事件判決でCAFCの解釈を否定しました。この事件では、コンピュータ・ソフトウエアが米国から海外にマスターディスクの形で送付され、日本やドイツで製造されたPCに搭載された場合、271条(f)の下で米国特許の侵害となるかどうかが争われました。最高裁は、ソフトウエアは発明品の構成部品にはあたらないので、域外適用の要件を満たさないとして、米特許の侵害は成立しないとしました。


※AT&T事件・最高裁判決
 http://www.supremecourtus.gov/opinions/06pdf/05-1056.pdf

 AT&T事件・最高裁判決試訳
 (松田特許事務所)
 http://matsuda-patent.com/ATTvMS-translation.pdf

 AT&T事件・最高裁判決解説
 (モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所)
 http://www.mofo.jp/news/updates/tlcb/pdf/070515.pdf 



この判決が注目されるのは、所有者の知財権を拡張的に解釈しがちなCAFCに対して、連邦最高裁が抑制的な解釈をとっているからです。判決の中で最高裁は、何も域外適用という法律上議論をよぶ手段をとらなくても、必要な国に特許出願しておけば済むことではないかという趣旨の意見を述べています。連邦最高裁は、この事件以外でも次々にCAFCの判断を覆しています。


AT&T事件を契機とした特許法の域外適用問題の本格的な論考として小田真治「米国特許法の域外適用の論点(上)」(「L&T」No.38, 2008/1, pp 34-43)があります。参考にしてください。


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