2008年01月15日

アメリカ知的財産法への誘い〜KSR判決とその影響(最終回)〜

米国特許庁(USPTO)は2007年10月10日、KSR判決を受けて103条に基づく自明性決定のためのガイドラインを発表しました。審査官用の「手引き」という位置づけであり、法的な拘束力はありません。冒頭に、既存のガイドラインと異なる場合には既存のものが優先すると断り書きがしてあります。とはいえ、いずれは審査便覧(MPEP)の改訂時に収載される予定であり、審査官にとっては座右の銘とせざるを得ないでしょう。

今回は、このガイドラインを通して米特許庁がKSR判決をどのように受け止め、どのように審査実務に反映させるつもりかを検討して本テーマについてのまとめとします。


KSR判決の要諦はグラハム基準への回帰です。

グラハム基準は、公知例の範囲と内容、当該発明と公知例との差異、当業者のレベルの確認・特定でした。今回のガイドラインでは、それぞれの要件について分析手法を提示しています。以下のようにまとめることができます。


1)公知例の範囲と内容の確認
  審査官はまず出願明細書に記載された発明を完全に理解する。その際、明細書に依拠して合理的かつ広義な解釈をする。その後、発明主題についての公知例調査を行う。調査に際してはMPEPの規定に従う。


2)当該発明と公知例との差異の確認
  まずクレーム文言を解釈する。その際、当該発明と公知例の全体を考慮する。


3)当業者のレベル
  審査官は、以下の点を考慮して技術レベルを決める。その後、発明が当業者にとって自明であるかどうかを決定する。
  a)解決すべき問題の種類
  b)公知例ではそのような問題をどのように解決しているか
  c)関連分野のイノベーションのスピード
  d)当該技術の洗練度
  e)当業者の教育レベル


なお、当業者のレベルを決める場合、審査官の技術レベルに依拠した判断をしても許される。また、審査官がTSM基準により拒絶理由が相当と判断した場合、TSM基準の適用は認められる。


さて、皆さんが米特許庁の審査官だとしたらこのガイドラインで、出願中の発明が自明であるかどうか判断できるでしょうか。かなり難しいのではないかと思います。


それに加えて先行きが読めない理由の一つは、連邦最高裁が「TSM基準を硬直的でない限り」認めるという妥協により、何も変わらないという結果も予想しうるからです。米国の非自明性法理の歴史を見ると、グラハム基準では抽象的すぎるということでTSM基準が導入されたという経緯があります。最高裁のKSR裁判のヒアリングでは、TSM基準は「怪しげな」基準といわんばかりの強い調子の批判を受けたにもかかわらず、結局、生き残りました。

その結果、審査官はTSM基準に駆け込むことができる余地が残りました。現実にTSM基準に依拠した下級審の判決も出始めているようです。


さて、次回は、米特許法の「域外適用」の問題について考えてみます。


posted by J.Fujino at 07:30| Comment(0) | TrackBack(0) | メールマガジン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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