2009年03月04日

e-Bay米国最高裁判決と日本特許法の改正

日本で特許法の抜本的な改正が検討されています。

改正の焦点は、特許権者の侵害差止請求権の改廃。今回の改正論は、瑣末な特許の権利行使により製造業が足を引っ張られているとの業界の声を受け止める形で浮上しましたが、その背景にはいろいろな事情があるようです。

まず、建前論から。

法律論では、特許は財産権であって所有権ではないとされています。これはどういうことかと言いますと、両者の所有(権)の「絶対性」の違いです。

簡単にいうと所有権と財産権ではどちらが強いかということ。所有権は、土地や建物のような有体物に認められており、その侵害に対しては損害賠償請求と差止請求が認められます。

ところが無体財産である特許の場合、所有の絶対性は有体財とくらべ相対的に弱いので、侵害の救済には損害賠償で十分であるという考えがあります。言い方を変えれば、特許権者に差止請求権まで認めるのは過分だということです。


このような法律論はさておき、この改正論が表に出るきっかけとなったのは、実は海の向こうのe-Bay事件米連邦最高裁判決でした。

米最高裁は、ビジネス特許(近年その特許性が問題視されておりました)については、機械的に差止を認めることはしないで、その適否をエクイティ(衡平法)の伝統的な4つの原則にもとづいて判断するとしたのです。

この判決は、これまで特許侵害が認定されるとほぼ自動的に認められてきた差止請求権に対して、正義・衡平の観点から判断しなければならないとしたのです。

判決のポイントは、差止を認めた場合に被る原告と被告の不利益の比較考量です。製造会社と製造能力をもたない特許権者では、差止命令の影響はまったく違います。差止命令の影響はメーカーには脅威であっても、製造していない者にとってはほとんど影響ありません。


米最高裁のe-Bay判決の背景には、製造能力をもたない特許権者(その多くはパテントトロール)が、特許侵害の差止請求権をてこにして莫大な和解金をせしめる練金術が米国で跋扈している実態があります。そこで使用されたのがビジネスモデル特許でした。

ビジネスモデル特許は、特許性について疑問の多いものが多く、昨年秋のCAFC判決(In re Bilski)で特許性が引き上げられました。ビジネス工程の組み合わせだけでは特許を認めない、特許になるためにはコンピュータとの連結が条件、ということがIn re Bilski判決で明らかにされましたが、それ以前に成立したビジネスモデル特許が多数あり、それをパテントトロールが「たな卸し」という名のもとに買い集めている現実があります。


日本では、上記のようないわゆる「パテントトロール」の跋扈はありませんが大手企業にはその種のコンタクトがすでに来ていると聞きます。問題が顕在化する前に行政が法改正に動いたとすれば、その評価は微妙です。

なぜならば、今、苦境にある製造業にとっては差止請求権の廃止は朗報かもしれませんが、中小企業やベンチャー企業にとっては特許をとる意味が少なくなります。特許の価値は差止請求権があることによる部分も大きいからです。


いずれ時が経って社会情勢が変わり、改正が社会実態に合わなくなったときにこんどは差止請求権を再導入できるかと言うと、それはおそらく難しいことでしょう。


この改正案の結末がどうなるか、しばらく見守ることにしましょう。
posted by J.Fujino at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メールマガジン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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