2008年11月17日

アメリカ知的財産法への誘い〜 ビジネス方法特許に対する死刑判決? 〜

2008年10月31日、日本企業の知財部や法務部に、米大手の知財専門の法律事務所から多くのニューズメールが届いた。その内容は、米特許高裁(CAFC)が10月30日、米国のビジネス方法特許に関する重要な判決(通常の3名の裁判官による合議判決ではなく、全裁判官による大法廷判決)の内容を解説したものであった。この事件は、商品に対する消費者の苦情処理費用を管理するための方法についての特許出願を特許庁が拒絶したことに対して争われたもので、CAFCは、自らの1998年のState Street Bank事件判決を変更して、ビジネス方法の特許適格基準を制限したものである。(In re Bilski判決)

米国では、特許を受けることのできる発明は、製品とプロセスに大別される。判例により、自然法則、心理的プロセス、抽象的アイデアは特許の対象から除外されてきた。ビジネスの方法はアイデアに近いので特許は認められなかった。しかし、その解釈は、CAFCのState Street Bank事件判決により変更された。CAFCは、ビジネス方法であっても、それが目に見える形で有用な結果を生み出すのであれば特許は認められると判決したからである。これは結果として審査の基準を大幅に引き下げるものであった。

State Street Bank事件で争われた特許は、金融ベンチャーの統合資産管理モデルについてのシステムと方法に関するものであった。特許の有効性が地裁で争われ、地裁はその特許は無効であると判決した。事件は控訴され、CAFCは地裁判決を破棄して、上に述べた解釈に立って特許の有効性を認める逆転判決をくだした。この判決が呼び水となり、その後、ビジネス方法特許ブームともいうべき現象が起きた。同判決以降、米国でのビジネス方法の特許出願件数は62,000件に及んだとされる。

ビジネス方法特許が認められることがはっきりしたため、これまで特許とは無縁の人達が盛んに特許を申請するようになった。しかし、米特許庁の審査能力の問題もあって、特許性そのものに疑問があるものにも特許が認められるようになった。まさに「何でも特許」と皮肉られる状況が出現したのである。これらの特許は、製造能力をもたない個人や法人の手にわたる場合が多く、専ら製造メーカーに対して権利行使された。

このようなビジネス方法特許が実体経済に与える悪影響を指摘したのが、米独禁法の番人である米連邦取引委員会(FTC)であった。FTCは2004年、米国企業の競争力に関する報告書の中で、米企業の技術革新が損なわれている原因の一つが、特許性に問題のある特許が特許庁により数多く認められていること、特に、ビジネス方法特許の問題点を指摘し、米特許庁に早急の改善を要請していた。特許庁側もこの問題については認識しており、ビジネス方法特許の審査基準を厳しくするなどして対処していた。その結果もあって、2001年のビジネス方法特許認可率が45%であったものが、2004年には11%に減少した。また、2007年には、特許が認められるのは、「機械によって作動する」プロセスであってかつ目に見える効果が得られるものに限定された。

裁判所も例外ではなかった。連邦最高裁は2006年、eBay事件判決(ビジネス方法特許の侵害が認められた事件)で、差止めによる救済は公共の利益や当事者の困難さなどを比較考量して慎重に判断すべきであるとした。これはパテントトロールが、差止めリスク回避したいという被告(大抵の場合、製造業者)の心理を利用して、多額の和解金をせしめるビジネスモデルを意識して、硬直的な差止めは認めないとした判決である。従来、侵害が認定されると自動的に差止救済が認めていたが、eBay判決はパテントトロールの訴訟戦略に大きな抑止効果があるとみなされている。

そして、今回のCAFCによるIn re Bilski事件判決。ビジネス方法特許の生みの親のCAFCが、自らの手でビジネス方法特許に高いハードルを課した。今後、ビジネス方法が特許を受けるためには、その方法が(1)具体的な機械や装置に連結されている(tied)こと、(2)具体的な物品を異なる態様や異なる物に変質する(transform)こと、が条件となる。

この判決は、特許法上、4つめの非適格な対象を追加するもので、極めて重要な判決であるという指摘がある。また、CAFCの大法廷判決は重要事件が多いため、連邦最高裁が上告を受理することが多い。今回の場合、連邦最高裁がどのような判断を下すか注目されている。もしState Street Bank事件の場合のように、今回の判決にも口を挟まないという立場(つまり上告請求を受理しないこと)をとれば、いわゆる「ビジネス方法特許」の命運は、実質的に尽きたということになろう。
posted by J.Fujino at 13:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メールマガジン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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