2009年05月11日

アメリカ知的財産法への誘い 〜 eBay判決の影響(ペイス社・トヨタ事件続報) 〜

このトピックは前回でとりあえず一段落の予定でしたが、このほど(4月17日)にテキサス東部地区地裁の差戻審判決が出ましたので続報として書きます。


まず事件のおさらいをしましょう。


この事件で地裁は、トヨタのハイブリッド車がペイス社の特許に均等論上侵害すると判決しました。ペイス社はその判決を受けて、差止請求をしたのですが地裁はeBay判決を根拠にその請求を退け、損賠賠償を一台当たり25ドルとしました。


この判決にペイス社とトヨタの両方が不服で、CAFCに控訴しました。

CAFCは地裁の判決を破棄して、25ドルの損害賠償の算定根拠が不明なので、算定根拠についてだけ審理をしなおすように地裁に事件を差し戻しました。

CAFCの判決理由は、侵害判決の前と後では賠償額算定根拠が異なるはずなのに、25ドルという過去の侵害に対する合理的実施料を採用した、つまり、侵害を認定する前の実施料率に依拠するのは一考を要するというものでした。


差戻審で地裁は、差止救済は認められないという前提に立ち、陪審員が25ドルに決めたのは過去の侵害を根拠とした合理的実施料である、陪審評決(2006年8月)により特許侵害が認定された以上、トヨタは故意侵害を継続していることになるので、侵害認定前の合理的実施料(つまり25ドル)と故意侵害が継続している状況では然るべき対価が加算される、と判示しました。

加算の根拠として

 ・2008年の原油価格の暴騰
 ・ハイブリッド車の販売増加
 ・同車の人気
 ・2007年燃費改善法の制定

などがあげられました。


今回の判決の背景には、

 (1) 陪審評決の25ドルは安すぎる
 (2) 陪審の評決は強制実施権に相当する
 (3) 総額としては穏当な賠償額だがこれでは侵害者のやり得となる

という地裁の心証があるようです。

地裁の「2006年8月後についてはトヨタは故意侵害者」という判断に対してトヨタはおそらくCAFCで争うことを望むでしょう。


ペイス社・トヨタの事件は、一審地裁(陪審)が実質的な強制実施権を認めたとして注目されたものでした。
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2009年05月03日

論文掲載:ホールドアップ問題に関する米国判例の展開、ホールドアップ特許に対する権利制限理論

ウェブサイトJinzo Fujino.netに以下の論文2編をアップしました。

ホールドアップ特許に対する権利制限理論
(日本知財学会誌2009年3月号寄稿)
標準化は技術革新を促し、技術革新は経済成長を牽引する。近年、規格の必須特許が行使され、標準化の普及を阻害する事例が増えている。このような特許の権利行使(ホールドアップ行為)に対して、わが国の独禁法、特許法、民法(一般条項)がどのような関わりをもつかを仮想事例に即して検討する。特に、民法・信義則について検討する。

ホールドアップ問題に関する米国判例の展開
(知財管理2009年3月号寄稿)
ホールドアップ特許は標準化の普及を損ねるため、主要国はその対策に頭を悩ましている。米国では専ら反トラスト法の適用により特許権の濫用的行使が規制されることが多い。しかしこの問題については、訴訟社会である米国においても裁判事例はそれほど多くない。最近新しい動きが見られるので、本稿ではこれまでの米国のホールドアップ問題についての審判決例を概観し、今後の方向性を検討する。

ウェブサイトから全文PDFが閲覧可能です。
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2009年04月20日

eBay判決の影響

eBay判決は、連邦最高裁判決であり、下級審にとって規範力をもちます。


下級審がどのような影響をうけるかについて、米特許高裁(CAFC)の判決(Paice LLC. v. Toyota Motor Corp.事件, 2007年)を具体的に検討してみます。


この事件でのPaice(原告)は自らは製造しないがハイブリッド電気自動車用のドライブ・トレインに関する特許を所有していました。トヨタのプリウスIIやレクサスなどの高級車が原告の特許3件を侵害しているとして、テキサス州の東部地区地裁に陪審裁を起こしました。陪審員は最終的に「文言侵害ナシ」均等論による「侵害アリ」と判断しました。


地裁は、損害賠償として、一台あたり25ドルの合理的実施料の支払いをトヨタに命じました。



それを受けて原告は、差止請求のモーションを提出し、侵害品の販売の差止めを求めたのですが、地裁はeBay判決に鑑みて、伝統的な4要素基準を適用して最終的に差止は認められないと判決しました。

原告はこの判決を不服として、CAFCに控訴し、被告のトヨタも均等論侵害の証拠が不十分であったとして控訴しました。


控訴審では、まず証拠が十分であったどうかが審理されました。トヨタの主張のポイントは、原告の専門家証人はもっぱら文言侵害を立証するための内容であって、それが認められなかった以上、均等論の侵害を支持するための証拠として不足である、というものでしたが、この主張は認められませんでした。


次の争点が、25ドルの損害賠償額の適否でした。


CAFCの結論は、25ドルの賠償額の多寡はともかく、その数字の算定根拠が不明なので、地裁でもう一度この論点についての審理をやりなおすよう命じました。


この事件の一審で、伝統的なエクイティの4要素が検討されました。4要素のうち特徴的なのが、第一要素の「回復不能な損害」と第三要素の「困難性」について。

回復不能な損害の有無については、原告は実際に製品を作っていないので、原告が失うものはないという結論で、原告の主張は認められませんでした。

また、困難性の有無については、原告は、差止が認められないと原告は事業から撤退しなければならないのに、トヨタにとってはちょっとした出費にすぎない、という主張をしましたが、認められませんでした。


この判決からも、差止リスクをてことした「ゆすり」的な取引を認めないというeBay判決のメッセージが伝わってきます。この事件も、製造設備をもたない特許権者による、パテントトローラ的な権利行使をめぐるものでした。
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2009年04月06日

eBay判決を契機とした日本の特許法改正(その2)

前回、日本で特許法改正の検討が進んでいて、その目玉の一つが差止請求権の廃止であることを書きました。

また、改正論の背景には、eBay米最高裁判決があったことも書きました。実は差止請求権の廃止は、「知的財産推進計画2008」の中で提言されています。

そこでは、米国のeBay判決を引き合いに出されています。推進計画は、濫用的な特許権の行使に対して規制のための何らかのルール作りが必要であるとしています。

そして、そのための手段として検討されているのが差止請求権の廃止という訳です。


知的財産推進計画2008
http://www.ipr.go.jp/sokuhou/2008keikaku.pdf

<67ページ>
(5) 知的財産の円滑・公正な活用を促進する
1 濫用的な権利行使に対応する
知財権の権利行使の仕方によっては、産業界における自由な競争に悪影響を与え、公共の利益に反する場合等があるため、2008年度から、正当な権利行使を尊重することを大前提としつつ、民法の権利濫用の法理や米国最高裁判決(eBay判決)等を考慮し、差止請求や損害賠償請求等の適切な権利行使の在り方について検討を行い、ガイドラインの作成等の必要な措置を講ずる。(経済産業省)



しかし、米最高裁判決をこのような形で、日本の知財政策の正当化理由に使うのは、もう少し慎重であるべきです。


それは、

 「eBay判決が法制度の異なる米国のものであること」

そして

 「eBay判決そのものの影響がどのようなものかまだ検証が十分ではない

ことが、理由です。


政策論としては濫用的な権利行使を規制することが正当化されても、法律として制定するためにはなにが濫用的でなにが合法的かをきちんと議論する必要があるでしょう。

「法律は10年前の事象を追う」と皮肉られますが、権利として制定された差止請求権を廃止するとなれば、それは十分な論議が必要であることは明らかです。


eBay判決は、伝統的なエクイティへの回帰を求めたものでした。

エクイティとは、個々のケース毎に差止の利益・不利益を比較考量して、救済としての差止命令の適否を決めようという米国独特の法理論です。

eBay判決の趣旨を日本でも活かそうとするのであれば、最初に差止請求権に手をつけるのではなく、むしろ衡平の観点からの利益調整の可能性を考えることが先決でしょう。特許法には「強制実施権」という格好の制度があります。むしろその活用を検討する法が、法の発展という意味でも正統だと思います。


日本の政策立案者は、米国の動きを「プロパテントからの後退」という単純化した図式でとらえているのかも知れません。筆者が、日本における差止請求権をめぐる動きに違和感をおぼえる理由はまさにその点にあります。eBay判決の意義は、当事者によって異なります。一律に「アンチパテント的」とするのは誤っています。

当事者により、事例により、eBay判決の影響が異なるのですが、日本では、伝えられるところによれば、権利としての差止請求を認めない方向で検討がすすめられているというのです。


次回は、eBay最高裁判決の影響が、下級審の心理にどのような影響を与えているかについて事例を挙げて紹介しましょう。
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2009年03月04日

e-Bay米国最高裁判決と日本特許法の改正

日本で特許法の抜本的な改正が検討されています。

改正の焦点は、特許権者の侵害差止請求権の改廃。今回の改正論は、瑣末な特許の権利行使により製造業が足を引っ張られているとの業界の声を受け止める形で浮上しましたが、その背景にはいろいろな事情があるようです。

まず、建前論から。

法律論では、特許は財産権であって所有権ではないとされています。これはどういうことかと言いますと、両者の所有(権)の「絶対性」の違いです。

簡単にいうと所有権と財産権ではどちらが強いかということ。所有権は、土地や建物のような有体物に認められており、その侵害に対しては損害賠償請求と差止請求が認められます。

ところが無体財産である特許の場合、所有の絶対性は有体財とくらべ相対的に弱いので、侵害の救済には損害賠償で十分であるという考えがあります。言い方を変えれば、特許権者に差止請求権まで認めるのは過分だということです。


このような法律論はさておき、この改正論が表に出るきっかけとなったのは、実は海の向こうのe-Bay事件米連邦最高裁判決でした。

米最高裁は、ビジネス特許(近年その特許性が問題視されておりました)については、機械的に差止を認めることはしないで、その適否をエクイティ(衡平法)の伝統的な4つの原則にもとづいて判断するとしたのです。

この判決は、これまで特許侵害が認定されるとほぼ自動的に認められてきた差止請求権に対して、正義・衡平の観点から判断しなければならないとしたのです。

判決のポイントは、差止を認めた場合に被る原告と被告の不利益の比較考量です。製造会社と製造能力をもたない特許権者では、差止命令の影響はまったく違います。差止命令の影響はメーカーには脅威であっても、製造していない者にとってはほとんど影響ありません。


米最高裁のe-Bay判決の背景には、製造能力をもたない特許権者(その多くはパテントトロール)が、特許侵害の差止請求権をてこにして莫大な和解金をせしめる練金術が米国で跋扈している実態があります。そこで使用されたのがビジネスモデル特許でした。

ビジネスモデル特許は、特許性について疑問の多いものが多く、昨年秋のCAFC判決(In re Bilski)で特許性が引き上げられました。ビジネス工程の組み合わせだけでは特許を認めない、特許になるためにはコンピュータとの連結が条件、ということがIn re Bilski判決で明らかにされましたが、それ以前に成立したビジネスモデル特許が多数あり、それをパテントトロールが「たな卸し」という名のもとに買い集めている現実があります。


日本では、上記のようないわゆる「パテントトロール」の跋扈はありませんが大手企業にはその種のコンタクトがすでに来ていると聞きます。問題が顕在化する前に行政が法改正に動いたとすれば、その評価は微妙です。

なぜならば、今、苦境にある製造業にとっては差止請求権の廃止は朗報かもしれませんが、中小企業やベンチャー企業にとっては特許をとる意味が少なくなります。特許の価値は差止請求権があることによる部分も大きいからです。


いずれ時が経って社会情勢が変わり、改正が社会実態に合わなくなったときにこんどは差止請求権を再導入できるかと言うと、それはおそらく難しいことでしょう。


この改正案の結末がどうなるか、しばらく見守ることにしましょう。
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2009年01月14日

アメリカ知的財産法への誘い 〜 年末年始の知財セミナー 〜

昨年末にメルマガ発行を予定していましたが、本業に追われその機会を逸してしまいました。遅配のお詫びとともに、本年最初の発行といたします。

今年もよろしくおつきあいをお願いいたします。


昨年末と年明け早々、知財セミナーで講演する機会がありました。
その様子と感想を述べて今年最初のブログといたします。



先ず最初に昨年12月9日の東京都知的財産総合センター主催の中小企業向け知的財産セミナーについて。


※東京都中小企業知的財産シンポジウム〜明日をみつめ、未来へつなぐ〜
 http://www.tokyo-chizai.jp/


このセミナーは中小企業の経営に知財をどう活かすかというテーマで、私は知財リスクの観点からワークショップで講演しました。その後で、工業デザイナーの奥山清行氏が「グローバル時代の知財戦略 競争力ある中小企業とは」という演題で基調講演をしました。

奥山さんはイタリアのフェラーリのデザイナーとしての経験を活かし、今は山形県に本拠地にしながら、一年の半分は外国でビジネスをしているそうです。

さすがに国際舞台で活躍している方はちがうと感じたのは、講演の内容もさることながら、その語り口、とくに間の取り方と聴衆への目線の配り方でした。

パワーポイントのスライドを使用しながら、原稿には一切顔を向けず、実に見事に話を展開し、完結させていました。その位の話術がないと外国との競争に勝ち抜いていけないのかと痛切に思い知らされました。

※工業デザイナーの奥山清行氏のオフィシャルウェブサイト
 http://www.kenokuyama.jp/

※その時の内容については、モデレータ役の遠山弁理士が自分のブログ(12月10日付)で紹介しています(http://chizai.cocolog-nifty.com/)。興味のある方は覗いてみてください。


基調講演の後に奥山氏やその他のパネリストを入れて、パネルディスカッションがありました。私は、自分のワークショップに参加した方にアンケートへの回答をお願いし、その回答をベースにしてパネル討論に臨みました。講演の後、パネル討論に出ることは何度かありましたが、その日のうちにアンケート調査をやってそのデータをもとにパネルでコメントするというのは初めてでした。

会場の受講者にとっても、自分のアンケート回答がどのように集計・解析されたのか興味があったようで、皆さん熱心に聞いておられました。講演内容とパネル討論を連動させるのは時間の問題もあり易しくはありませんが、いつか機会があればもう少しアンケートの調査項目を工夫してみたいと思いました。



次に年明けの知財研修について。1月7日、北陸地方にある某国立大学で、朝9時から午後4時まで、昼1時間の休みを挟んで、計6時間マラソン研修の講師を務めました。与えられたテーマは「企業経営と知的財産」と「民間企業における技術情報管理」で、両方とも難問中の難問のテーマでした。受講者は、これから学内の知財問題に取り組む教員や職員の方々。

今、日本の大学では、産学連携をどう進めるかで頭を痛めています。特に地方の大学は、地場産業との連携ということで、大都市の大学とは違った悩みをもっているようです。

どこの大学も知財担当の入れ物は国主導でできたのですが、それを担当する人材育成が課題です。今回は、学内で主導的に役割を行う知財アドバイザー養成のための研修講座でした。


閑話休題。現地には前日に入り、その夜は日本海でとれた海鮮料理をゆっくり堪能しました。美味しい地酒は翌日のマラソン研修そなえて控え目にして、お料理だけはたっぷりいただいた次第。

正月三箇日よりもリッチな気分を味わいました。
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2008年12月08日

アメリカ知的財産法への誘い 〜 「米国特許リフォーム法案」(続き) 〜

今年の8月に本欄で、米国特許リフォーム法案の中の損害賠償規定(284条)の改正について、具体的には「エンタイヤ・マーケット・バリュー」ルールの廃止について書きました。その時には紙幅の関係でその他の改正項目については説明を省きましたが、今回は残りの改正項目について概観しようと思います。

※メルマガVol.14「特許リフォーム(改革)法案」
 http://archive.mag2.com/0000251729/20080818073000000.html

先ず、今議会が検討してきた米国特許リフォーム法案には、以下のような改正が盛り込まれています。


特許法
 102条  先願主義の導入
 118条  企業による出願
 122条  全出願公開
 122条(e) 第三者特許情報提供
 135条  インタフェランス規定の削除、冒認手続き導入
 273条  先使用権の拡大
 284条  損害賠償と故意侵害
 315(c)条 当事者系再審査のエストッペル改正
 321〜332条 登録後再審査手続の新設

裁判所法
 1400条 裁判地修正

連邦民事訴訟法
 1292条 クレーム解釈の中間控訴


特許法284条、裁判所法1400条そして連邦民事訴訟法1292条を除く改正項目は、「米国アカデミーズ」が提案した「21世紀の米国特許制度」の中に提示されたものです。米国アカデミーズは元特許庁長官、大学教授、弁護士など知財分野の有識者で構成される団体で、2004年 4月に米国特許制度の抜本的な改革を提案しました。そこで提案された項目が2005年の改正案、2007年の改正案に盛り込まれてきたのです。

実は米国アカデミーズが提案した改正項目の多くは、米国の深刻な制度疲労に対する対策としてほぼ不可欠という点ではコンセンサスがとれていました。

ところが、議会に提案された法案には、それらコンセンサスの取れている項目に加えて、損害賠償規定、裁判所法1400条、連邦民事訴訟法1292条など、一部の業界には反発が強い項目が盛り込まれたのです。

どのような理由からこれらが盛り込まれたかは明らかではありませんが、おそらく現行の特許裁判制度に問題があるという意見を踏まえてドサクサに紛れた法案に盛り込んだものと思われます。

その結果、それらの項目については、特に情報産業とバイオ産業が強く反対し当初予定していた2007年での議会通過がならず、2008年に入ってからは大統領選挙で特許リフォーム法案どころではない雰囲気になってしまったのです。

厳密に言えば、これは法案に問題があったために審理が棚上げされたというよりも、大統領選挙を含めその他の問題が焦眉の急で、特許改革法案はそれらの中に埋没してしまったと言った方が的切かもしれません。


[特許法・参考リンク]
・米国・特許法(米語)
http://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/documents/appxl.htm
・米国・特許法(日本語)
http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/mokuji/us_tokkyo1.pdf
・米国・裁判所法(英語)
 〜JUDICIARY AND JUDICIAL PROCEDURE〜
http://www.law.cornell.edu/uscode/html/uscode28/usc_sup_01_28.html
・米国・連邦民事訴訟法(英語)
 〜FEDERAL RULES OF CIVIL PROCEDURE〜
http://www4.law.cornell.edu/uscode/html/uscode28a/usc_sup_05_28_10_sq4.html
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2008年11月17日

アメリカ知的財産法への誘い〜 ビジネス方法特許に対する死刑判決? 〜

2008年10月31日、日本企業の知財部や法務部に、米大手の知財専門の法律事務所から多くのニューズメールが届いた。その内容は、米特許高裁(CAFC)が10月30日、米国のビジネス方法特許に関する重要な判決(通常の3名の裁判官による合議判決ではなく、全裁判官による大法廷判決)の内容を解説したものであった。この事件は、商品に対する消費者の苦情処理費用を管理するための方法についての特許出願を特許庁が拒絶したことに対して争われたもので、CAFCは、自らの1998年のState Street Bank事件判決を変更して、ビジネス方法の特許適格基準を制限したものである。(In re Bilski判決)

米国では、特許を受けることのできる発明は、製品とプロセスに大別される。判例により、自然法則、心理的プロセス、抽象的アイデアは特許の対象から除外されてきた。ビジネスの方法はアイデアに近いので特許は認められなかった。しかし、その解釈は、CAFCのState Street Bank事件判決により変更された。CAFCは、ビジネス方法であっても、それが目に見える形で有用な結果を生み出すのであれば特許は認められると判決したからである。これは結果として審査の基準を大幅に引き下げるものであった。

State Street Bank事件で争われた特許は、金融ベンチャーの統合資産管理モデルについてのシステムと方法に関するものであった。特許の有効性が地裁で争われ、地裁はその特許は無効であると判決した。事件は控訴され、CAFCは地裁判決を破棄して、上に述べた解釈に立って特許の有効性を認める逆転判決をくだした。この判決が呼び水となり、その後、ビジネス方法特許ブームともいうべき現象が起きた。同判決以降、米国でのビジネス方法の特許出願件数は62,000件に及んだとされる。

ビジネス方法特許が認められることがはっきりしたため、これまで特許とは無縁の人達が盛んに特許を申請するようになった。しかし、米特許庁の審査能力の問題もあって、特許性そのものに疑問があるものにも特許が認められるようになった。まさに「何でも特許」と皮肉られる状況が出現したのである。これらの特許は、製造能力をもたない個人や法人の手にわたる場合が多く、専ら製造メーカーに対して権利行使された。

このようなビジネス方法特許が実体経済に与える悪影響を指摘したのが、米独禁法の番人である米連邦取引委員会(FTC)であった。FTCは2004年、米国企業の競争力に関する報告書の中で、米企業の技術革新が損なわれている原因の一つが、特許性に問題のある特許が特許庁により数多く認められていること、特に、ビジネス方法特許の問題点を指摘し、米特許庁に早急の改善を要請していた。特許庁側もこの問題については認識しており、ビジネス方法特許の審査基準を厳しくするなどして対処していた。その結果もあって、2001年のビジネス方法特許認可率が45%であったものが、2004年には11%に減少した。また、2007年には、特許が認められるのは、「機械によって作動する」プロセスであってかつ目に見える効果が得られるものに限定された。

裁判所も例外ではなかった。連邦最高裁は2006年、eBay事件判決(ビジネス方法特許の侵害が認められた事件)で、差止めによる救済は公共の利益や当事者の困難さなどを比較考量して慎重に判断すべきであるとした。これはパテントトロールが、差止めリスク回避したいという被告(大抵の場合、製造業者)の心理を利用して、多額の和解金をせしめるビジネスモデルを意識して、硬直的な差止めは認めないとした判決である。従来、侵害が認定されると自動的に差止救済が認めていたが、eBay判決はパテントトロールの訴訟戦略に大きな抑止効果があるとみなされている。

そして、今回のCAFCによるIn re Bilski事件判決。ビジネス方法特許の生みの親のCAFCが、自らの手でビジネス方法特許に高いハードルを課した。今後、ビジネス方法が特許を受けるためには、その方法が(1)具体的な機械や装置に連結されている(tied)こと、(2)具体的な物品を異なる態様や異なる物に変質する(transform)こと、が条件となる。

この判決は、特許法上、4つめの非適格な対象を追加するもので、極めて重要な判決であるという指摘がある。また、CAFCの大法廷判決は重要事件が多いため、連邦最高裁が上告を受理することが多い。今回の場合、連邦最高裁がどのような判断を下すか注目されている。もしState Street Bank事件の場合のように、今回の判決にも口を挟まないという立場(つまり上告請求を受理しないこと)をとれば、いわゆる「ビジネス方法特許」の命運は、実質的に尽きたということになろう。
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2008年11月09日

アメリカ知的財産法への誘い〜 特許模擬裁判 〜

筆者は現在、知財の専門職大学院で、米国特許法と国際知財訴訟を担当している。授業の準備のために、1990年に作成した「米国特許模擬裁判」のビデオを見る機会があった。


このビデオは、筆者が編集責任をしたものであるが、コピーを持っていることさえ忘れかけていたので、とてもなつかしく当時を思い出した。


この模擬裁判は、東京・三田の笹川記念ホールで1990年に開催した。

日本で初めての本格的な特許模擬裁判だったこともあり、話題を呼び500人弱の企業知財法務担当者が参加した。出演者は米国人特許弁護士9人。それぞれ裁判官、法廷弁護士、証人役を担当した。人工肺に関する米国特許侵害訴訟のトライアル(法廷審理)の場面を、実物サンプルを使って再現した。シナリオは、米国知財法協会(AIPLA)の訴訟部会が会員の研修用に制作したもので、それを日本での実演のためにお借りした。


この模擬裁判を企画・実施したのが筆者であった。出演者との連絡、会場の設営、ビデオ記録など、部下の手伝いがあったとは言え、すべて手探りで、今思えばよくやったものである。会場も現在であれば、ロースクールの模擬法廷などをお借りできるかもしれないが、当時は適当な場所がなく、結局、大きなホールのステージでの実演となった。結局、模擬裁判という公演の舞台監督をやったようなものである。


今では苦労の大半は忘れたが、模擬裁判の模様をビデオで見ると、さまざまなことが思い出されてくる。特に、ビデオ制作の経験が今思うと貴重であった。

ビデオ制作も筆者が担当したのだが、一番の苦労は、日本語のナレーションを入れるためのセリフ作成。裁判では特許性要件の有無が争点になるので、それを分かりやすい日本語に直すのに苦労した記憶が蘇ってきた。米国特許法を特に102条、103条については相当勉強した。それが、今の米特許法を教えるという立場にも大きな支えとなっているような気がする。それから、スタジオでのビデオ編集作業は、まったく違った環境での作業で、編集機械やスタッフに囲まれての作業は、とても楽しかったことを覚えている。


模擬裁判が好評で、出演者がその気になり、翌年には、さらにエスカレートして、陪審員による特許侵害裁判を行った。そのためにニューヨークの地方裁判所から現役の裁判官を招き、実際に陪審員を舞台上に上げて、模擬裁判を実施した。場所は同じく笹川記念ホール。その時には、陪審員による別室での評議の模様を中央ステージに映写するという仕掛けをした。NHKのカメラが入り「NHKスペシャル」にも取り上げられるほど話題となった。当時は、知財が関心を持たれ始めた揺籃期だった。


今、振り返ると、感慨もひとしおである。
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2008年08月24日

アメリカ知的財産法への誘い〜 特許リフォーム(改革)法案 〜

今、アメリカ連邦議会は夏休み中です。


秋に連邦議会が再会されると大統領選挙に突入しますので、現在上院本会議に送られている特許リフォーム法案は、ほぼ廃案間違いなしと見られています。

昨年度あれほど騒がれ、注目された改革法案ですが、今年に入ってからは話題にも上らなくなりました。


関心が冷めた理由はいくつかあるようです。

ある人にとっては、議会が特許制度の行方にあまり関心をもっていないというあきらめが強くなり、ある人にとっては、いずれ来年に始まる新しい会期(第111議会)にまた同じ法案が提出されるだろうという期待があります。

同じような改革法案が2005年に出され、それが廃案になって2007年にも再度提出されていますから、事情通の人は、2009年度にも同じことが起こると予想するでしょう。

ちなみに米国議会の会期は2年です。


特許リフォーム法案は多様な改正項目をもちます。

その中身についてここでは紹介できませんが、一つだけ注目すべき項目がありますので触れておきます。それは損害賠償規定(284条)の改正です。


これまで米国特許の侵害を救済するための損害賠償額は、「エンタイヤ・マーケット・バリュー」ルールを適用して算定する場合がありました。このルール「EMVルール」は、米国の特許損害賠償額を高騰させる大きな要因となっていました。

EMVルールとは、簡単に言いますと、部品に特許があって、その特許の侵害による損害賠償額の算定は、その部品を組み込んだ製品や装置の売上げを根拠にするというものです。

当然、製品や装置の売り上げは、構成部品の比ではありませんから、賠償額算定のベースが膨らみます。その結果として算定される損害賠償も高騰したのです。


法案の中では、EMVルールを原則として廃止にして、その代わりに特許発明の貢献部分に限定した損害賠償にすることが謳われています。

こう書きますと、特許の損害賠償は、特許発明に限定するのは当然ではないかと思われる読者も多いことでしょう。しかし、EMVルールはプロパテント全盛時に、特許権者の利益を守るために生み出されたた判例法なのです。

その判例法に対して、今、アメリカの企業が悲鳴を上げ、その改正を求めているという訳です。もちろん、その対象は製造業に携わらない特許権者、いわゆる「パテント・トロール」です。EMVルールは、米国でビジネスを行う際のリスクマネジメントの項目にもなっていました。


最近は、裁判所、特に最高裁がプロパテントの行き過ぎを是正するような法解釈をとっていますので、特許法が改正されなくても直ぐに不都合が起こるということはないのですが、明文でEMVルールが廃止することになれば、損害賠償法の透明性を高まり、実務上の影響は大きいでしょう。
posted by J.Fujino at 23:58| Comment(0) | TrackBack(3) | メールマガジン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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